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家族信託で遺留分を侵害するとどうなる?対策はどうする?

家族信託で遺留分対策はできるのでしょうか。家族信託を設計する際に、遺留分に配慮する必要はあるのでしょうか。

今回は、家族信託と遺留分について詳しくご紹介していきます。

1 家族信託の「信託受益権」は遺留分の対象となる可能性

家族信託を設定すると信託財産は、受託者の名義に変更されます。しかし、実際に権利を有しているのは「信託受益権」を有する受益者です。

この信託受益権は、相続財産として遺留分の対象になる可能性があります。

1-1.信託受益権とは

信託受益権とは、信託財産から発生する利益を受ける権利のことです。

信託受益権は、信託契約を締結し、委託者から受益者へ財産が信託譲渡されることで発生します。

信託受益権は、第三者へ売却や担保に供することも可能で、財産として認識されています。信託受益権の譲渡を受けると、受益者に対して信託財産の経済的利益を渡すように請求することができます。

家族信託では、この信託受益権が相続争いの火種になる可能性があるのです。

1-2.「信託受益権」はなぜ遺留分侵害額請求の対象になるのか

遺留分とは

遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に民法で認められた最低限の相続財産を取得できる権利です(民法1042条)。

遺留分を侵害された相続人は、遺贈または贈与によって遺留分を侵害した者に対して、侵害された遺留分相当の金銭を請求することができます(民法1046条1項)

そこで、信託受益権が遺留分の請求対象になるのかが問題となります。

信託受益権は相続税法条の「みなし相続財産」

かつては、家族信託の信託受益権は、死亡保険金などと同様に「みなし相続財産」として民法上、遺留分の対象にならないとする説がありました。

被相続人の死亡を原因として、被相続人の固有財産以外の財産を相続人が取得した場合は、相続税法上、「相続財産」とみなして相続税の課税対象とします。この財産を「みなし相続財産」と言い、被相続人の死亡保険金がその典型となります。相続税法上、信託受益権は、みなし相続財産に該当します。

さらに、みなし相続財産は、民法上の相続財産には該当しないため、他の相続人と著しい不公平が生じない限り遺留分の請求対象とはなりません。

信託受益権は遺留分の請求対象となり得る

一方で、前述の通り、「信託受益権」は受益者固有の財産として認められています。そのため、現在では、受益権者の死亡により移転した信託受益権は、遺留分の請求対象となるとするのが有力です。事実、後述する裁判例でも、信託受益権が遺留分の請求対象になると明示しています。

上記を踏まえ、次の裁判例があったことを考慮すると家族信託によって遺留分の請求を完全に廃除できるとは言えません。

後継ぎ遺贈型受益者連続信託について

家族信託の大きなメリットの1つとして、受益者が死亡した場合に、信託受益権の取得者を複数の世代に渡って順次定めることができる、後継ぎ遺贈型受益者連続信託があります。この仕組みを利用すれば、遺言より先の遺産の承継先まで指定することが可能になります。後述する裁判例もこの家族信託の形式を利用したものでした。

この後継ぎ遺贈型受益者連続信託の信託契約に、「死亡した受益者が所有する信託受益権は消滅し、新受益者が新たな信託受益権を取得する」と定めると、当初の受益者が死亡すると信託は消滅し、信託受益権も消滅することになり、次の受益者として指定されている新受益者に改めて信託受益権が発生します。

信託受益権が1回消滅し、新たに発生していることから、信託受益権が相続されているわけではなく、遺留分侵害額請求の対象にはならない、と形式的には考えることができるという説があり、家族信託で遺留分回避ができると言われていた理由の1つとなっています。

2 遺留分請求を回避するための家族信託を無効とした判決

ここでご紹介する裁判例により、現在では信託受益権は実質的に受益者の財産であることから相続財産と同様に取り扱われ、遺留分侵害額請求の対象となる可能性があります。

まずは、家族信託と遺留分の関係性を変えた判例をご紹介します。

2-1.東京地方裁判所平成30年(2018年)9月12日の判決

父が委託者、次男を受託者とする家族信託について、父の相続人である長男が、その信託契約の無効を主張した裁判です。

家族信託と遺留分を巡る裁判の背景

父は末期癌の闘病中で、余命は残り数日と診断されていました。

そのため多くの不動産を含む財産を所有者している父は、死亡の半月前に、全財産の2/3を次男に、1/3を長女に贈与するとういう死因贈与契約を締結しました。

そしてその直後に、次男を後継ぎとして受託者に指定した家族信託契約を締結し、父の死亡後の受益権は、長男1/6、長女1/6、次男4/6の割合で取得するようにされました。受益権として設定されたのは、信託不動産の売買代金、賃料などの信託不動産から発生する経済的利益を受けることができるというものでした

家族信託を一部無効とした判決について

判決は、「家族信託契約が遺留分の潜脱を目的としたものとして公序良俗違反により無効」とされ、一部の不動産についての家族信託を無効としました。

その理由について裁判所は、家族信託の実態が、一部の信託不動産から得られる経済的利益の分配を信託当初より想定しておらず、父が長男の遺留分請求を回避するために家族信託を設定したこと認め、この部分が公序良俗に反しているため一部の信託契約について無効であるという判断を下したのです。

残念ながらこの裁判は控訴審で和解になり、最終的な裁判所の判断はなされていませんが、この判決以降、家族信託を行う場合には遺留分にも配慮した方が良いという考え方に改められています。

ただし、この判決は、家族信託の内容が公序良俗違反を理由に無効にしたという点がポイントです。また、この判決は、旧民法の「遺留分減殺請求制度」によるもので、民法改正後の「遺留分侵害額請求」によるものではありません。

しかし、この裁判例から1つ言えるのは、遺留分の潜脱を目的とした家族信託は避けるべきということです。

3.家族信託する際に遺留分対策としてできること

家族信託は、高い自由度が魅力です。しかし、遺留分を超えた信託契約も締結できてしまうことも確かです。

そこで最後に、家族信託と遺留分侵害額請求の問題に関して、事前にできる対策をご紹介します。

複数の方法を重ねて行うことで、より効果的な対策になります。

3-1.すべての財産を家族信託化しない

認知症になった時に備えて、委託者のすべての財産を信託財産にしたいという思いは理解できなくはありません。しかし、遺留分対策という観点からはおすすめできません。その理由は、遺留分を確実に侵害してしまうからです。

最初から遺留分を侵害しない家族信託にしておけば、遺留分侵害額請求を心配せずに済みます。

3-2.生前贈与・生命保険で受益者に別に現金を残す

遺留分侵害額請求をされた場合には、金銭での支払いにより対応することになるため、請求された側が金銭を用意できなければ、信託財産の一部を売却して用意することになり、家族信託で当初予定していた意図が実現できなくなってしまいます。

そこで、生前贈与や生命保険を利用して、遺留分侵害額請求用の資金を信託財産外で残しておくことをおすすめします。

特に生命保険は、受取人固有の財産として遺産分割や遺留分の対象にならないため、安心して確保することができます。

3-3.遺言書の付言事項の利用

遺言書には付言事項といって、被相続人のメッセージを書き記すことができます。

例えば遺留分に関しての記載であれば、「遺留分侵害額請求が行われないことを心から願います。」などです。

付言事項には法的効力はなく、相続人の心情に訴える効果しかありませんが、それでも亡き家族からの最期の言葉となれば、通じるものはあるのではないでしょうか。

3-4.家族での話し合い

遺留分侵害額請求が行われるケースは、ご紹介した判例のように、隠れて家族信託が行われていた場合など、他の相続人が納得していないことが多いのも事実です。

遺留分を侵害する内容の家族信託であったとしても、なぜそうするのかという委託者の気持ちを話し、それに対する相続人それぞれの思いをしっかりと話し合って理解しあうことができれば、遺留分侵害額請求が行われる可能性は格段に下がります。

もしも、納得できない相続人がいた場合には、遺留分相当の現金を生前贈与するなど事前の対策を講じることもできます。

家族信託には、事前の話し合いも大切です。

4.まとめ

家族信託の信託受益権は、遺留分の請求対象になると考えられています。もっとも、家族信託は新しい制度であり、特に家族信託と遺留分については明確な規定がありません。判例も少ないことから、専門家の経験則による判断に依拠するところが大きいと言えます。

しかし、ここまでご説明した通り、家族信託を遺留分対策として用いることは避けるべきです。家族信託の設定に不安をお持ちの方やご興味のある方は、是非一度上原会計事務所までお問い合わせください。

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「あんしん相続」には、ご家族の協力、連携はもちろんですが、専門家のサポートも必要になってきます。

例えば、上記のような場合以外にも、下記のように税理士・弁護士・司法書士を含めた総合的なアドバイスが必要になるケースが少なくありません。

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  • 老後の財産管理・処分に不安がある
  • 財産に含まれる不動産の割合が多い
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  • 先妻の子がいる、結婚している子がいないなど財産の承継に不安がある
    など

弊所では税理士・社会保険労務士・行政書士・弁護士でUグループを形成しており、ワンストップで相続手続き全般についてご相談いただけます。

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