
相続によって土地や建物を取得した場合には、相続登記を行います。
ただ、相続登記には期限もなく、相続登記を行わなくても法的に問題はありませんので、ついつい長期間放置したままでいるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、相続登記を行っていない場合のトラブルや相続登記の手続きについてご紹介させていただきます。
未登記であることにお悩みの方、相続登記を行うつもりがない方などご一読いただき、速やかに対処いただけますと幸いです。
1.相続登記をしないとどんなトラブルがある?
まず、相続登記をしないままでいるとどのような問題があるのか、ご理解ください。
1-1.登記がなければ権利を第三者に主張できない
不動産の所有権を取得しても登記をしてなければ、その権利を第三者に主張することができません。
代表的な例として土地の二重譲渡が挙げられます。
AからBへ土地の譲渡があってもBが登記しなかった場合、AはそれをいいことにCへ同じ土地を譲渡し、すぐにCの登記があった場合には、登記を経由していないBはその権利をCに対して主張することができません。
相続の場合には次のような問題が考えられます。
被相続人Aから土地を相続したBは、相続登記をしないままにしていました。すると、残りの相続人Cが、遺産分割協議書を偽装して単独名義で登記をしてしまい、その後、売却と買主に名義を変更する登記をしてしまったとします。
Bは、Cから土地の売却を受けた者に対して、法定相続分については主張することはできますが、土地全部を取り戻すことはできません。
1-2.売却したくても売却できない
相続登記をしていないことで直面しやすい問題が、売買を行う場合です。
一般に、土地の売買は、登記上の名義人を現在の所有者から購入者に変更することにより行われます。
登記がなければ所有権を第三者に主張できないため、登記上の所有者と売却しようとする人が異なる土地を購入しようと思う人は、まずいません。相続登記をしてないとだけ説明したとしても、応じる購入者は現れないでしょう。
1-3.不動産を担保に融資を受けられない
金融機関から融資を受けたい場合、担保に入れることができる土地があると融資を受けやすくなります。
ただし、土地の所有権の登記がされていないと、その土地を担保にすることはできません。
土地を担保にするには、受け入れる金融機関が、その土地について抵当権の設定登記を行います。抵当権の設定登記は、金融機関と登記簿上の所有権者との共同申請で行いますので、融資を受ける人名義の登記が土地になければすることができません。
1-4.登記をしていない土地でも固定資産税は発生
「相続登記をしなければ、所有者が分からないので固定資産税の請求がないのでは」と思われる方がいらっしゃいますが、違います。
相続登記をしていない土地については、相続人全員に固定資産税を納める義務がありますので、相続人代表者に固定資産税の納税通知書が届きます。
不動産を相続していない相続人が支払った場合には、不動産の相続人に求償することができます。
1-5.権利関係が複雑になってしまう
相続が発生した不動産は、相続登記がされるまでは相続人全員が法定相続分に応じて共有している状態になります。
この状態が該当の相続人達のみの代だけで済めばまだ良いのですが、相続人の誰かが亡くなってしまいますと、その権利は次の代へ進んでしまい、相続が繰り返すにつれて複雑化していきます。
時の経過とともに血縁の薄い相続人が増えていくことになりますので、いざ相続登記を行おうとしたときに、所有者が行方不明で収拾できない状態になっている可能性もあります。
2. 相続登記をしないと罰則はあるの?
相続登記をしないことについて罰則はありません。しかし、表題部のない不動産を承継した場合に、登記をしなければ罰則があります。
2-1.「表題部」と「権利部」とは
登記簿謄本は主に「表題部」と「権利部」の記載があります。
表題部とは、その不動産の所在や面積、構造など基本的な情報が記載される欄です。
権利部は甲区と乙区に分かれており、甲区は権利のなかでも所有権に関する内容が記載される欄で、過去から現在までの不動産の所有者が分かります。
乙区は、所有権以外の抵当権や賃借権、地上権といった権利に関する内容が記載される欄になります。
【出典サイト】不動産登記のABC|法務省
2-2.表題部の登記をしていない場合の罰則
不動産登記法36条には、「新たに生じた土地又は表題登記がない土地の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない。」と記載されており、同法47条1項は、「新築又は表題登記のない建物の所有権を取得した者(区分建物の所有権を取得した者は除く)」についても同様の義務を課しています。
また、これを怠った場合には、不動産登記法164条により10万円以下の過料が発生することとされています。
相続した建物は新築ではない、昔から代々使用している土地だからと、無縁のことと思われるかもしれませんが、特に20年~30年以上前に建てられた建物では、登記されていない可能性はあると考えてください。
2-3.権利部の登記は義務ではなく罰則もない
表題部の登記は義務であり怠ると罰則がありましたが、権利部は義務ではなく罰則もありません。
ただし、そのために放置されてきた相続登記がない不動産が年々増加傾向にあり、所有者が不明となっている土地や建物は管理者も不在という場合が多く、荒れ果て、景観の悪化や近隣住民への被害、治安が悪くなるなど多くの問題を引き起こします。
そこで、国は相続登記の義務化を検討しています。
3.相続登記をするメリット
以上のようなトラブルを避けるためにも、相続登記は必ず行うようにしましょう。
そこで、次に相続登記を行うメリットをご紹介させていただきます。
3-1.権利関係が複雑化するトラブルを避けられる
遺産分割の際に併せて相続登記も行っておけば、所有者を確定しておくことで、権利関係が複雑になってしまい、後の代で相続時のトラブルが発生しやすくなるのを避けることができます。
3-2.所有権を主張できる
相続登記を行えば、登記簿謄本に所有者がその不動産の名義人であることが記載されますので、第三者に対して法的に所有権を主張することができます。
3-3.取引の円滑化
融資の担保提供や売買など、不動産の取引には基本的に登記簿謄本が必要になります。
ここで相続登記がされていないことが判明すると、折角の取引が白紙になってしまいますので、相続したら相続登記まで一連の流れとして行っておかれると、その後の取引も円滑に行うことができます。
4.相続登記手続きの流れ
最後に、相続登記の流れを簡単にご紹介させていただきます。
① 相続人の確認
被相続人の遺言書があれば、通常、遺言書の通りに遺産を分割しますが、相続人全員の同意があれば、遺言書と異なる遺産分割も可能です。
被相続人の遺言書がない・遺言書と異なる遺産分割をする場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を相続するのかを決定します。
特に土地は相続財産の中でも高額になりやすいですので、後々にトラブルが発生することがないように、しっかりと話し合いをしてください。
共有名義での相続もできますが、その後の相続で、大変な労力がかかる可能性があります。どうしてもという理由がある場合以外には、避けたほうがいいでしょう。
遺産分割協議がまとまりましたら、その内容を遺産分割協議書に記載し、相続人全員で署名と押印をします。
② 登記申請書の作成
法務局へ相続登記を申請するため、登記申請書を作成します。
申請書の様式はこちらよりダウンロードできます。
【参考サイト】不動産登記の申請書様式について|法務局
③ 法務局に必要書類を提出
法務局に登記申請書と必要書類を合わせて提出します。
遺産分割協議により不動産を取得した場合の必要書類
- 遺産分割協議書
- 被相続人の誕生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 不動産を取得した相続人の住民票
- 相続人全員の印鑑証明書
- 不動産の固定資産評価証明書
など
遺言書により不動産を取得した場合の必要書類
- 遺言書
- 被相続人の死亡時の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 不動産を取得した相続人の戸籍謄本
- 不動産を取得した相続人の住民票
- 不動産の固定資産評価証明書
など
この他に、登記を司法書士などの専門家に依頼する際には、委任状が必要となります。
④ 法務局での書類審査
提出した書類に問題がないか確認されます。
不足等あれば電話連絡がありますので、対応されてください。
⑤ 登記簿への記載
書類が通りますと、登記簿へ記載されます。
⑥ 登記事項証明書・登記識別情報の通知
登記が完了した旨の連絡がありましたら、念のために登記事項証明書を1通取得して内容を確認されてください。
⑦ 登記にかかる費用
- 戸籍謄本や住民票などの手数料:数千円
- 法務局への郵送代、交通費:数千円
- 登録免許税:固定資産評価額 × 0.4%
- 登記事項証明書:不動産1件600円
- 司法書士への報酬(登記の代行を依頼する場合):5~10万円程度
まとめ
相続登記をしないメリットは、登記費用を支払わなくて済むことだけです。将来的にトラブルに巻き込まれて損失を被る可能性があり、相続登記が義務化された後では罰則の対象になってしまう可能性もあります。
不動産の相続がありましたら、相続登記もセットで行いましょう。
長年放置していて悩まれている方がいらっしゃいましたら、法律の改正前に、速やかに行われることをおすすめいたします。