
目次
借りた土地にご自宅を建てている場合には、借地権が発生しています。
被相続人のご自宅に相続が起こった時、借地権はどのように取り扱われるのでしょうか。今回は借地権の相続について、詳しくご紹介させていただきます。
1.借地権は相続できるの?
借地権は相続財産として相続できます。
まずは借地権の基本についてご紹介していきます。
1-1.借地権とは
借地権とは土地を借りる権利のことで、普通借地権と定期借地権に分かれます。
普通借地権
普通借地権は、契約期限は決まっていますが、借主が期限の更新や延長を求めることができます。
もし断られた場合には地主からその土地を買い取ることもできますので、長く住み続けることができます。一般的に借地権とだけ呼ばれるものは普通借地権のことを指します。
定期借地権
定期借地権は、契約期間が50年以上となりますが、期限の更新や延長を求めることはできず、買い取ることもできません。
契約終了後には更地にして地主に返さなければなりません。
普通借地権と定期借地権を簡単に比較しますと、借主側の権利が強いのが普通借地権、地主側の権利が強いのが定期借地権となります。
普通借地権 | 定期借地権 | |
---|---|---|
契約の更新 | 可 | 不可 |
契約期間 | 当初は30年以上 | 50年以上 |
目的 | 制限なし | |
契約満了後の建物の扱い | 建物付きで返還 | 更地にして返還 |
1-2.借地権も相続の対象
借地権も相続の対象になります。
借地権は被相続人の財産であり、相続が発生した場合には、当然に相続人へ承継されますので、地主へ許可を貰う必要はありませんし、承諾料を支払う義務もありません。賃借料や賃借期間などの契約内容もそのまま相続人に承継されます。
しかし、遺贈によって相続人以外の第三者へ移転する場合には、地主の許可と承諾料、契約の変更が必要になります。
1-3.遺産分割が終わらない間も賃借料は発生
借地権を誰が相続するか遺産分割協議を行って検討している間も、賃借料は発生し続けています。
土地の相続人が決まるまでの間の賃借料については、相続人全員が負担すべきものになります。実務上では、遺産分割されるまでは相続人の1人が代表して賃借料を支払い、遺産分割の際に清算する方法を取られることが多いです。
遺産分割が終わらないからと賃借料を滞納してしまいますと、地主より契約を解除される可能性があります。
2. 借地権の相続手続きは?
次に、借地権を相続した際の手続きの進め方についてご紹介させていただきます。
2-1.地主への連絡
何より先に地主へ相続が発生したこと、誰が相続するのかを連絡しましょう。
地主との良好な関係を続けていくため、また今後の賃借料の請求先などを明確にしておくことで、契約をスムーズに繋げることができます。
2-2.建物の登記名義変更手続き
借地権は登記することができますが、借地権については借地上の建物を登記することで第三者に権利を主張できますので、登記があることは稀です。
借地権が登記されていないからといって、わざわざ登記する必要もありません。建物の名義変更手続きのみ行えば十分です。
必要書類
- 遺産分割協議書
- 被相続人の出生から死亡に至るまでの連続した戸籍謄本
- 被相続人の除住民票
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人全員の戸籍謄本
- 建物の相続人の住民票
- 固定資産税評価証明書
など
費用
- 登録免許税(固定資産税評価額 × 0.4%)
- 戸籍謄本などの取得費用
- 司法書士費用5~10万円程度(代行依頼した場合)
2-3.借地権の名義変更手続き
稀ではありますが登記されている借地権を相続した場合には、建物と同様に名義変更手続きを行わなければなりません。
必要書類
- 遺産分割協議書
- 被相続人の出生から死亡に至るまでの連続した戸籍謄本
- 被相続人の除住民票
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続人全員の戸籍謄本
- 借地権の相続人の住民票
- 固定資産税評価証明書
など
費用
- 登録免許税(固定資産税評価額 × 0.2%)
- 戸籍謄本などの取得費用
- 司法書士費用3~5万円程度(代行依頼した場合)
3. 借地権は相続税の課税対象
借地権は相続財産として相続することができるので、相続税の課税対象にもなります。
相続税を計算する際には、借地権の相続税評価額を計算して使用します。
3-1.相続税の評価額の計算方法
借地権の相続税評価額の計算方法を、普通借地権と定期借地権に分けてご紹介させていただきます。
普通借地権の場合
普通借地権の相続税評価額は、自用地としての評価額に借地権割合を乗じて計算します。
自用地評価額 × 借地権割合
自用地評価額とは更地としての評価額を言い、路線価方式または倍率方式により計算します。
その土地に適用される路線価や倍率、借地権割合は、その土地が所在する町や丁目など毎に国税庁が定めていますので、「路線価図・評価倍率表」より確認することができます。
【参考サイト】財産評価基準書|国税庁
自用地評価額の計算方法につきましては、こちらに詳しく記載しておりますのでご覧ください。
【関連記事】相続税評価額と計算方法
定期借地権の場合
定期借地権の相続税評価額は、借主に帰属する経済的利益とその存続期間を考慮させますので、普通借地権に比べて、少し複雑になります。
自用地評価額 × A/B × C/D
- A:借地人に帰属する経済的利益の額
- B:その土地の通常の取引価額
- C:課税時期における定期借地権の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
- D:定期借地権の設定期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率
国税庁ホームページに載っている「定期借地権等の評価明細書」を使用しますと、金額を当てはめていくだけで、比較的簡単に相続税評価額を計算することができます。
【参考サイト】[手続名]定期借地権等の評価明細書|国税庁
基準年利率と複利年金現価率は以下よりご確認いただけます。
基準年利率 | 令和2年分の基準年利率について(法令解釈通達) |
---|---|
福利年金現価率 | 複利表(令和2年7月・9月分) |
3-2.借地権の相続でも小規模宅地等の特例は適用可能
土地の相続に対して適用できる小規模宅地等の特例は、相続税評価額を大幅に減額できる節税効果の高い制度です。
借地権であっても適用することができ、取り扱いも所有権と特に変わるところはありません。
適用要件を満たす場合には、所有権の土地と同様に小規模宅地等の特例を適用することができます。
小規模宅地等の特例について詳しくは、こちらをご覧ください。
【関連記事】土地の相続税対策に欠かせない小規模宅地等の特例とは?
4.相続した借地権の利用法
相続した借地権は、そのままご使用になる他に、どのような利用法があるでしょうか。ご紹介させていただきます。
4-1.地主の許可を得て建て替え・増築が可能
被相続人がお住まいであったご自宅であれば、築年数が経っていることも多く、相続を機に建て替えや、増築することを検討する方もいらっしゃるでしょう。
ただし、その際には、地主の許可を必ず得なければなりません。建替承諾料や増改築承諾料を求められた場合の金額は、更地価格の約3%が目安となっています。
4-2.底地を買い取り自分の土地とする
また、資金的余裕がある場合には、底地を地主から買い取る方法も検討されると良いでしょう。そうすれば、ご自分の土地になり、定期的な地代支払いはなくなって、許可や、更新手続き、承諾料などが不要になります。
ただし、地主と交渉しなければなりませんので、相場より高い金額を請求されるなど不公平なことにならないよう、不動産会社などの専門家へ相談すると良いかと思います。
4-3.地主に借地権を買い取ってもらう
もうその土地に住まないなど、借地権が不要である場合には、地主に借地権を買い取ってもらうのも方法の1つです。
地主が応じてくれるようでしたら、買取価格(近隣の更地価格の60~70%程度が上限目安)などの交渉をして売買契約に進みます。
金額が大きな取引になるため、後々のトラブルを避けるためにも、不動産会社などの専門家に仲介を依頼されるとスムーズかと思います。
4-4.地主の許可を得て借地権の売却
借地権は所有権と同じように第三者に売却することもできますので、不要でしたら被相続人のご自宅ごと売却することもご検討ください。
ただし、借地権ですので地主の許可は必須になります。
4-5.承諾料について
借地権は、その土地の利用に何か変更がある都度、地主に確認して許可を得なければなりません。先でご紹介してまいりました通り、契約の変更、名義書き換え、建物の増改築、借地権の売却などです。
その承諾を得るにあたり、借主から地主へ支払われるのが承諾料になります。個々の承諾の内容にはよりますが、相場としましてはその土地の更地価格の5~10%程度となっています。
まとめ
借地権は相続することができ、相続税の課税対象になります。
借地権の相続税評価額の計算は、借地権の種類によって異なり、特に定期借地権の評価では複雑な計算をしなければなりません。
相続税計算、地主との交渉など借地権には、専門的知識が必要となることが多いですので、その都度、適した専門家にご相談されることをおすすめいたします。