
「相続税申告書=税理士」というイメージが強いですが、ご自分で作成することは可能です。もともと、相続税の申告書は、原則的に、ご自分で作成して申告するものですので、申告書様式は専門知識がない人でも作成できるように作られています。
今回は、相続税申告書の記入の仕方を1から10まで画像付きで分かりやすくご紹介いたします。皆申告書作成のご参考にしていただけますと幸いです。
1.申告書の種類
相続税申告書は第1~15表まであり、各表には付表もあります。
ただ、すべての相続に共通してこれらの表すべてを使用するわけではなく、必要な表をかいつまんで使用します。
次の表では一般的な多くの相続に使用する表には、左端に〇を記載しております。
一般的に使用する | 表名 | 表題名 | 説明 | 記入順 |
---|---|---|---|---|
〇 | 第1表 | 相続税の申告書 | 相続税申告書のメインとなるページで、各相続人が鵜相続した財産額、各控除額など第2表以降で計算される金額がここに集約されます。 | 7 |
〇 | 第2表 | 相続税の総額の計算書 | 相続税の総額を計算する計算書です。 | 8 |
第3表 | 財産を取得した人のうちに農業相続人がいる場合の各人の算出税額の計算書 | 農地等の相続があり、納税猶予の適用を受ける場合に各人の算出税額を計算します。 | – | |
第4表 | 相続税額の加算金額の計算書 | 相続税の2割加算の対象者がいる場合に記載をします。 | 9 | |
〇 | 第5表 | 配偶者の税額軽減額の計算書 | 配偶者の税額軽減の適用を受ける場合に、その控除額を計算します。 | 10 |
〇 | 第6表 | 未成年者控除額・障害者控除額の計算書 | 未成年者控除・障害者控除の適用を受ける場合に、その控除額を計算します。 | 11 |
第7表 | 相次相続控除額の計算書 | 相次相続控除の適用を受ける場合に、その控除額を計算します。 | 12 | |
第8表 | 外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書 | 外国税額控除・農地等の納税猶予を受ける場合の控除額、納税猶予額を計算します。 | – | |
〇 | 第9表 | 生命保険金などの明細書 | 相続や遺贈によって取得したとみなされる保険金額の内訳を記入します。 | 1 |
〇 | 第10表 | 退職手当金などの明細書 | 相続や遺贈によって取得したとみなされる退職手当金の内訳を記入します。 | 2 |
〇 | 第11表 | 相続税がかかる財産の明細書 | 4 | |
第11の2表 | 相続時精算課税適用財産の明細書・相続時精算課税分の贈与税額控除額の計算書 | 相続時精算課税の適用を受けている場合の贈与財産の明細と贈与税額控除の計算です。 | – | |
〇 | 第11・11の2表の付表1 | 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書 | 小規模宅地等の特例の適用を受ける場合の計算明細です。 | 3 |
第12表 | 農地等についての納税猶予の適用を受ける特例農地等の明細書 | 農地等の納税猶予を受ける場合の、対象となる農地等の明細書です。 | – | |
〇 | 第13表 | 債務及び葬式費用の明細書 | 債務や葬儀費用について負担する人の氏名と金額を記入する明細書です。 | 5 |
第14表 | 純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額及び特定贈与財産価額・出資持分の定めのない法人などに遺贈した財産・特定の公益法人などに寄附した相続財産・特定公益信託のために支出した相続財産の明細書 | 生前贈与のうち、法人へ遺贈した財産、公益法人への寄附した相続財産がある場合に記入します。 | – | |
〇 | 第15表 | 相続財産の種類別価額表 | 第11~14表に記載した財産の価額を集計します。 | 6 |
右端に記載しましたのは申告書を効率よく作成していくための順番で、以下の流れにしたがって番号を振っています。
ステップ1:相続税がかかる相続財産の計算
ステップ2:相続税の総額を計算
ステップ3:税額控除額の計算
ステップ4:各人の相続税額の計算
次項以降の各表の書き方では、この順番通りにご紹介していきます。
また今回では、適用を受ける方の多い小規模宅地等の特例の適用のみがある場合の申告書の書き方についてご紹介します。
相続時精算課税制度、農地等の納税猶予制度については適用対象者がいないものとします。
【参考サイト】相続税の申告書等の様式一覧(令和元年分用)|国税庁
2.ステップ1:相続税がかかる相続財産の計算
相続税申告書作成のスタートはまず、相続税がかかる相続財産の金額を、第9~15表を使って計算していきます。
2-1.【第9表】生命保険金などの明細書
受け取った保険金の明細と、保険金額から非課税となる金額を差し引いて、相続税がかかる保険金の額を計算していきます。
① 所在地や名称など間違いなく記入します。
② 非課税限度額に使用する法定相続人の数は、第2表から転記します。
2-2.【第10表】退職手当金などの明細書
受け取った退職手当金、功労金、退職給付金などの明細と、退職金から非課税となる金額を差し引いて、相続税がかかる退職金の額を計算していきます。第9表と基本的に作りは同じです。
弔慰金については、遺族に支払われるお金であり相続財産ではないため、ここに含める必要はありませんが、一定の限度額を超えた場合には超えた部分は退職金として扱われます。
2-3.【第11・11の2表の付表1】小規模宅地等についての課税価格の計算明細書
相続した宅地等に小規模宅地等の特例を適用する場合に作成する表で、元々の宅地等の評価額から特例適用額を差し引いて、相続税がかかる宅地等の評価額を計算します。
① 小規模宅地等の特例は、特例が適用できる宅地等の相続人すべての同意が必要となります。該当する人すべての氏名を記入します。
この付表は少々複雑ですので、今回は軽く触れる程度でご紹介いたします。
詳しくはこちらをご覧ください。
【参考記事】土地の相続税対策に欠かせない小規模宅地等の特例とは?
2-4.【第11表】相続税がかかる財産の明細書
相続税がかかる財産が種類ごとに記載される明細書です。
① 該当する遺産の分割状況に「〇」を付け、分割した年月日を記入します。
② 1つの財産につき1行を使用し、細目ごとに「小計」、種類ごとに「計」を記入します。
③ 最後に合計表に、財産の総額と、相続人が取得した財産の合計を記入します。
なお、各欄の記入にあたっては、以下のファイルを参考にしてください。
【参考】申告書第11表の取得した財産の種類、細目、利用区分、銘柄等の記載要領
2-5.【第13表】債務及び葬式費用の明細書
債務控除の金額の明細です。債務と葬式費用とに分かれていますので、それぞれ記入します。
① 債務の明細については、種類と細目も記入します。種類は大区分、細目は小区分のイメージで、実際使用する項目は以下のとおりです。
② 債務と葬式費用の各人合計と、両者の各人合計、各相続人から債務控除として差し引かれることになる債務と葬式費用の各合計を記入します。
【種類】
公租公課、銀行借入金、未払金、買掛金、その他の債務
【細目】
- 公租公課:所得税及び復興特別所得税、市町村民税、固定資産税などの税目とその年度
- 銀行借入金:当座借り越し、証書借り入れ、手形借入れ
- 未払金:未払金の発生原因
- 買掛金:記入の必要はありません
- その他の債務:債務の内容
2-6.【第15表】相続財産の種類別価額表
相続財産と債務控除の種類別金額を記入し、課税価格を計算します。
① ①「田」~⑥「計」、⑨「家屋・構築物」~㉘「合計」までは第11表を見ながら記入します。㉘「合計」の金額が、第11表の「合計表」の③「各人の取得財産の価額」とそれぞれ一致しているかを確認してください。
② ㉟「債務」には、第13表の③「負担することが確定した債務」と「負担することが確定していない債務」の合計を、㊱「葬式費用」には、第13表の⑥「負担することが確定した葬式費用」と「負担することが確定していない葬式費用」の合計を、㊲「合計」には、第13表の⑦「合計」の金額を転記します。
③最終的な課税価格は、1,000円未満を切り捨てます。253,286,750+1,000,000=254,286,750は、1,000円未満を切り捨てて254,286,000となります。
④各人の合計の列の課税価格の記入は、各人相続人の列の記入が終わった後に行を合計して記入するようにしましょう。列で足し引きしてしまいますと、端数処理の関係で合計が合わなくなる場合があるためです。
3.ステップ2:相続税総額の計算
相続税がかかる相続財産の金額が算出されましたので、次はその相続財産にかかる相続税の総額を計算します。
3-1.【第1表】相続税の申告書(上部)
ステップ1で作成してきた表と、後にステップ3で作成する表をここに集約させます。
① 年齢や職業など基本的に死亡日における情報を記入しますが、各相続人の住所については、申告書提出日時点での住所です。
また住所は、被相続人、各相続人ともに住民票の住所ではなく、実際に生活の本拠としていた住所となります。② それぞれの金額を指定の欄から転記してきます。例えば、①の「取得財産の価格」の下には(第11表③)と書かれていますので、そこから転記します。
③ ④「純資産価格」は、赤字の場合には「0」と記載します。マイナス金額での表示にはなりません。
④ 相続税の総額は、⑧「あん分割合」を使って各相続人に割り振られます。
按分割合は、以下の計算で求められますが、小数点以下2位未満の端数が出た場合には、合計が1となるのであれば、小数点以下2位から10位まで自由に選択できるようになっていますので、納税者有利となるように調整することができます。
按分割合 = 各人の課税価格 ÷ 課税価格の総額
3-2.【第2表】相続税の総額の計算書
相続税の総額を計算します。
課税価格の合計から基礎控除額を差し引いた課税遺産総額を、法定相続人に法定相続分で按分し、それぞれの按分額に相続税率を乗じて各法定相続人の相続税額を算出します。
そしてその算出額を合計した金額が相続税の総額となります。
⑧「相続税の総額」の金額は第1表の⑦「相続税の総額」に転記し、最終的に各相続人が納める相続税額を計算するうえでの根本となります。
4.ステップ3:税額控除の計算
相続税の計算には、相続税額を直接減らすことができる税額控除という制度があります。
ここではその各種税額控除の計算をします。
4-1.【第4表】相続税額の加算金額の計算書
相続税の計算には、被相続人との関係性が薄い他人が財産を受け取る場合には、相続税額が2割加算される制度があります。
この制度の適用対象となる人がいる場合には、この計算書を作成します。
① ①「各人の税額控除前の相続税額」に第1表の⑨「算出税額」の金額を転記します。
② 2割の加算金額を計算した⑥「措置法第70条の2の2第10項第2号に規定する管理残額がある場合の加算の対象とならない相続税額」の金額を、第1表の⑪「相続税額の2割加算が行われる場合の加算金額」に転記します。
4-2.【第5表】配偶者の税額軽減額の計算書
配偶者が、配偶者の税額軽減の適用を受ける場合に作成する計算書です。
① 農業に関係のない一般的な相続の場合には、上部の「1一般の場合」に記入していきます。
② それぞれ転記元の表の番号と欄の番号が書かれていますので、それに従って金額を埋めていきます。
③ 配偶者の税額軽減額である「ハ」の金額を、第1表の⑬「配偶者の税額軽減額」に転記します。
4-3.【第6表】未成年者控除額・障害者控除額の計算書
相続人の中に未成年者や障害者がいる場合には控除を受けることができ、その控除額を計算するための表です。
上部の1が未成年者控除、下部の2が障害者控除を記入する欄になっています。
① 未成年者の年齢は、被相続人死亡日時点での年齢で1年未満は切り捨てます。
② ②「未成年者控除額」と③「未成年者の第1表の(⑨+⑪-⑫-⑬)又は(⑩+⑪-⑫-⑬)の相続税額」を比べて、少ないほうの金額を未成年者控除額として第1表の⑭「未成年者控除額」に転記します。
③ もしも、②より③の金額が少なく未成年者控除できる金額が余ってしまった場合には、その余った金額を④「控除しきれない金額」に記入します。
④ ④「控除しきれない金額」は未成年者の扶養義務者の控除に使用することができますので、氏名と⑤「扶養義務者の第1表の(⑨+⑪-⑫-⑬)又は(⑩+⑪-⑫-⑬)の相続税額」、⑥「未成年者控除額」を記入し、⑥の金額を第1表の⑭「未成年者控除額」に転記します。
障害者控除も基本的に未成年者控除と流れは同じです。
⑤ ②「障害控除控除額」については、障害の程度で1年あたりの控除額が変わります。
障害者手帳の1、2級の人は特別障害者、3~6級の人は一般障害者となります。
4-4.【第7表】相次相続控除額の計算書
10年以内に別の相続があった場合には、前回の相続で支払った相続税額のうち一定額を今回の相続税額から差し引くことができます。この表はその控除額を計算するためのものです。
① 前回の相続の情報を記入しますので、申告書の控えが必要です。
② 今回の相続の情報を第1表から転記します。
③ ⑬「各人の数次相続控除額」の金額を相次相続控除額として、それぞれの第1表の⑯「数次相続控除額」に転記します。
5.ステップ4:各相続人が納める相続税の計算
5-1.【第1表】相続税の申告書(下部)
最後のステップです。
ステップ3で各種税額控除の計算ができましたので、各相続人が納める相続税を計算します。
① 相続税の総額に按分割合を乗じた各相続人の相続税から、⑫「暦年課税分の贈与税額控除額」~⑰「外国税額控除額」、⑳「相続時精算課税分の贈与税額控除額」、㉑「医療法人持分税額控除額」の税額控除を差し引いて納付すべき相続税額を算出します。
② ㉒の金額に100円未満の端数が出る場合には、切り捨てます。
【出典サイト】相続税の申告のしかた(令和元年分用)|国税庁
まとめ
相続税申告書の書き方をご紹介してまいりました。
相続税申告書は一見難しく思ってしまいがちですが、このように解説に沿って作成すればそれほど難しいものではありません。
また、分からない箇所が出てきた場合には、税務署にて無料で相談に乗ってもらうこともできます。
ただし、ご自分での申告では、節税対策などの専門的なことまではなかなか難しいかもしれません。節税対策の有無で納める相続税額が数百万と変わる場合もありますので、申告の中身を重視されたい場合には税理士に依頼されると良いと思います。