
目次
家族間、特に夫婦間においては日常的に金銭のやり取りがあるかと思いますが、中には贈与税がかかる場合があることをご存じでしょうか。
今回は、夫婦間の贈与についてご紹介させていただきます。
1.夫婦間なら生活費・教育費を贈与しても贈与税はかからない
夫婦にはお互いを扶養する義務がありますので、通常の生活を送るうえで必要になる生活費や教育費の贈与については、いくらであっても贈与税はかかりません。
例えば妻が専業主婦の世帯の場合には、夫は妻へ家族が日常生活を送るための生活費を渡すかと思います。月20万円とすると年間240万円になり基礎控除110万円を超えますが、必要である分については贈与税が一切かかりません。
ただし、生活に有り余る金額を渡している場合には、その余剰部分については贈与税の対象となります。
あくまでも「必要な金額」であることがポイントとなります。
2.その他夫婦間の贈与で贈与税がかからないケース
生活費や教育費のような贈与以外の贈与であっても、次の場合には贈与税はかかりません。
2-1.基礎控除110万円以下の暦年贈与
これは夫婦間の贈与に限ったことではありませんが、暦年贈与には基礎控除額が年間110万円ありますので、毎年1月1日から12月31までの間に行われた贈与額が110万円以下の場合には贈与税はかかりません。
贈与税の基礎控除については、次の記事を是非、ご一読ください。
【関連記事】贈与税とは?|どんな時にかかる?非課税枠は?わかりやすく解説
2-2.贈与税の配偶者控除
夫婦間で行われた贈与で次の要件に該当する場合には、2,000万円まで贈与税はかかりません。長年連れ添った夫婦が適用できる制度であるため、通称「おしどり贈与」とも呼ばれます。
なお、前項でご紹介させていただきました暦年贈与の基礎控除額110万円との併用ができますので、非課税枠は最大2,110万円となります。
- 婚姻期間が20年以上であること
- その夫婦が今までに配偶者控除を受けていないこと
- 居住用不動産または居住用不動産を購入するための資金のいずれかの贈与であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその居住用不動産に居住し、その後も居住し続ける見込であること
- 贈与税の申告をすること
利用上ご留意していただきたいのは、以下の2点です。
- 同一の夫婦間で1度だけ利用できる特例である
- 贈与額が非課税枠の2,000万円以下であった場合でも満たなかった部分を次の贈与に回すことはできない
例えば、夫婦で居住しているマイホームの名義を夫から妻へ変更した場合、贈与税の対象ではありますが、贈与税の配偶者控除の適用を受けると、マイホームと土地建物の評価額が2,110万円までは贈与税はかかりません。
3. 夫婦間の贈与でも贈与税がかかるケース
ここでは、贈与税がかかる夫婦間の贈与で、よくあるケースを具体的にご紹介いたします。
次項では、それぞれどのようにしたら贈与税がかからなくなるのかを対比してご紹介したいと思います。
3-1.基礎控除を超える贈与
年間110万円の基礎控除を超える贈与には、超えた部分に対して贈与税がかかります。
例えば、結婚記念日に300万円のダイヤモンドの指輪をプレゼントしたとします。ご主人の思いやりと感謝がこもった贈り物ですが、税法はそのような気持ちなど汲んではくれません。
プレゼント自体が贈与とされ、110万円を超えていますので、190万円(300万円-110万円)に対して贈与税がかかります。
3-2.夫婦間の預金・現金の移動
夫の口座から妻の口座へ振り込みを行ったり、現金を預け入れたりした場合で、それが生活費や教育費以外の場合には、夫の財産を妻へ移動させたことが贈与となり、110万円を超える部分については贈与税がかかります。
3-3.住宅の名義変更
住宅の名義変更を行うということは、所有者が変わったということになります。
夫から妻へ名義変更を行うことが夫から妻への住宅の贈与となり、110万円を超える部分については贈与税がかかります。
3-4.住宅の名義人以外が払ったリフォーム資金
夫婦で居住している住宅であっても、その所有者は登記されている名義人であり、その住宅を維持管理する責任は名義人にあります。
例えば、夫名義の住宅をリフォームした際に妻が資金を出した場合には、本来、夫が負担すべき資金を妻が肩代わりしたことが贈与となり、110万円を超える部分について贈与税がかかります。
3-5.住宅ローンを名義人以外のもう一方が返済
夫が組んだ住宅ローンを妻が返済した場合、例えば返済期間の途中で、妻の貯金から繰り上げ返済をした場合には、夫の借金を妻が代わりに返したことが妻から夫への繰り上げ返済資金の贈与になり、110万円を超える部分について贈与税がかかります。
3-6.共同名義の住宅ローンを単独名義に書き換え
「3-4.住宅ローンを名義人以外のもう一方が返済」の場合と同様の考え方になります。
例えば、夫婦の共有名義としていた住宅ローンを夫単独の名義に書き換えた場合には、妻の借金を夫が代わりに返すことが、夫から妻へ借金相当額の贈与となり、110万円を超える部分について贈与税がかかります。
3-7.共有不動産の持分割合設定
夫婦共有名義で不動産登記をする場合の持ち分割合は、それぞれが出した資金の割合によります。例えば、5,000万円の土地を夫婦が2分の1ずつ資金を負担して購入した場合には、持ち分割合はそれぞれ2分の1となります。
これが、実際には夫3,000万円、妻2,000万円の負担であったにもかかわらず、2分の1での登記になっていますと、夫から妻へ500万円の贈与があったこととなり、110万円を超える部分について贈与税がかかります。
3-8.離婚成立前の贈与
離婚による財産分与は贈与となりませんので、贈与税はかかりません。
ただしこれは離婚後に行われた場合ですので、離婚が成立する前に前倒しで財産分与を行うと贈与税の対象になり、110万円を超える部分について贈与税がかかります。
4.夫婦間の贈与で贈与税がかからないようにする方法
それでは、それぞれどのような贈与にすれば贈与税がかからなくなるのか、ご紹介いたします。
4-1.基礎控除を超える贈与
贈与する金額を年間110万円以下に抑えることです。結婚記念日のプレゼントはせっかくですが300万円ではなく、110万円のダイヤモンドにしていただければ贈与税はかかりません。
4-2.口座の移動
口座移動させる金額を年間110万円以下にすること、または、生活費や教育費として必要となる金額の範囲内にすることで贈与税はかかりません。
妻へ現金を300万円渡したい場合には、1回ではなく数年に分けて移動させます。例えば、1年目100万円、2年目80万円、3年目50万円、4年目70万円と贈与を行えば、合計300万円を無税で妻へ贈与することができます。
毎年100万円を3年間で行えばシンプルなのですが、毎年同じ額を贈与していますと、元々300万円を贈与することが目的だったということで定期贈与とみなされてしまい、贈与額は300万円として贈与税がかかってしまいます。
贈与額を毎年変えること、贈与契約書を作成することなどで定期贈与のリスクは軽減できますので、実行を検討されている場合には税理士にご相談いただければと思います。
4-3.住宅の名義変更
贈与税の配偶者控除の適用要件に該当する場合には、適用を受けることで2,110万円までは贈与税がかかりません。
4-4.リフォーム費用の負担
贈与税がかからないようにする対策としては、以下のものがあります。
- 名義人以外が負担するリフォーム費用を110万以下に抑える
- 贈与税の配偶者控除の適用を受けてリフォーム費用を負担する人の名義に変更する
- リフォーム費用の負担額に応じて共有名義に変更する
- 名義人以外がリフォーム費用を負担するのではなく、名義人への貸付とする
など
貸付として処理する場合には、証拠を残すために金銭消費貸借契約書も忘れずに作成してください。
4-5.住宅ローンの返済・単独名義への変更
名義人ではない方が住宅ローンの繰り上げ返済資金を負担しても贈与税がかからないようにするためには、次のような方法があります。
- その返済に充てる金額を年間110万円以下に抑える
- 名義人以外が負担した分に相当する住宅の所有権をその人に変更して共有名義にする
- 名義人以外が直接繰り上げ返済をするのではなく、名義人へ一旦貸し付けて、名義人が繰り上げ返済する
など
リフォーム費用の負担と同様に、貸付の場合には金銭消費貸借契約書を作成してください。
住宅ローンを共有名義から単独名義へ変更した場合には、住宅ローンがなくなった方の共有持分を単独名義となった方へ贈与するという方法があります。この場合には、贈与税の配偶者控除の適用を受けることで2,000万円までは贈与税がかかりません。
住宅ローンを利用した住宅には抵当権が付いていますので、借入先の金融機関へのご相談も必要になります。
4-6.共有不動産の持分割合設定
購入資金について夫婦どちらがいくら負担したのかを細かく把握し、それに基づいて正確に持分割合を設定します。誤差が110万円以下であれば贈与税はかかりません。
4-7.離婚成立前の贈与
住宅につきましては、贈与税の配偶者控除の適用を受けることで2,110万円までは贈与税がかかりません。
贈与税の配偶者控除の適用を受けたい場合には、離婚後では反対に受けることができなくなってしまいます。
まとめ
夫婦間の贈与であっても基本的には、他人間の贈与と同様の取り扱いになります。
ただし、婚姻期間が20年以上の夫婦については贈与税の配偶者控除の適用があります。同一夫婦間に一度しか適用できませんので、賢く利用したい制度です。