相続税申告

1.相続が開始したら

相続は一生のうちで何度も経験するわけではありません。葬儀に参列することはあっても、ご自身が代表なり、喪主をなさる回数はそんなにあるものではありません。それだけに、いざ相続となると何から手を付けていいのかわからないというのが現実です。

葬儀に関することは葬儀社さんにお願いするとして、相続税のことになると、どうしたらいいのか?自分でできるのか?だれに聞いたらいいのか?と迷ってしまいます。税金にかかわることですし、遺産分割やら、相続人のこと、いつまでに何をしたらなど多くのことが不明です。間違ってはいけないし、争いがあってもいけないと気がかりなことが山積です。これに対処するにはどうしたらいいでしょうか?

2.専門家に相談を

私たちは30年以上相続案件に携わり多くの相続を見てきました。その経験から申し上げますと、早めに相続に強い税理士に依頼されるのがいいということです。弁護士、司法書士も相続業務に携わりますが税金申告は専門ではありません。遺産分割の争いがあれば弁護士に、相続登記なら司法書士に依頼することになるでしょう。また、申告期限ぎりぎりの相談も賢明ではありません。相続税申告やそれに付帯する手続きは細かい約束事が多く、手順の前後、適用の相違などがあると後から修正するのは大変な労力と費用がかかります。

<例えば・・・>

相続税申告にあたって小規模宅地特例と言って最大80%まで宅地の評価額を減額できる制度があります。この制度には被相続人、相続人、対象宅地、保有要件などの要件が付されていて、いずれの要件を欠いても適用できなくなってしまいます。しかも、不動産ですので誰が相続するのかも重要な点です。これらの条件を満たすように相続するためには生前から専門家と相談して誰に相続させるかを遺言として残しておくことが必要です。

相続に知見のある専門家であれば、相続人とその家庭環境、相続財産、将来の生活設計等全体を俯瞰して適切な答えを出してくれるはずです。時として「こうやるといいよ」と耳打ちしてくれる知人がいるかもしれませんが、部分的には正しくとも全体を見通して適切な意見とは言えないことがよくあります。相続は、その後の相続人の生活に大きく影響するものです。節税とか、目先の損得だけではなく家族の調和と平安に目を向けるようにしたいものです。

3.相続税申告のための基本要素

相続税申告を行うにあたって、基本となる要素があります。①相続人②相続財産③遺産分割です。この3要素を確定させることで相続税申告を行うことができます。

① 誰が相続人なのかを確定させること

② 被相続人の所有していた財産を確定させること。相続財産=積極財産―消極財産
積極財産とは現預金、不動産、有価証券、事業用資産、生命保険金など
消極財産とは借入金、未払税金、住宅ローン、事業用債務、アパート預かり敷金など

③ 遺産分割を確定させること。10か月以内に遺産分割が確定しない場合には未分割としていったん申告を済ませ納税もすることになります。その後、分割が確定した段階で再度申告、更正の請求をすることになってきます。

 

相続人が確定しない状態では税額計算ができません。相続人の確定は被相続人の出生から死亡時までの戸籍謄本を取得する必要があり、また相続人に関する謄本も必要です。その過程で見ず知らずの相続人が出現することもあり精神的にも労力のかかる作業です。

少額な財産などは別として相続財産が確定しないと遺産分割の話し合いが纏まらないでしょう。相続人の一人が提出した遺産明細に疑義がある場合など、相続人間で争いが生じてしまいます。遺産分割が確定しないと未分割申告のため「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地特例」といった特例適用ができません。納税額が多くなってしまうこともあり心理的にも不安定な状態が続くことになります。

4.スケジュールの確認を

相続税申告までの流れ=スケジュールを知っておくと気持ちがぐっと楽になります。相続税申告は、相続の開始があった時から10か月以内に相続税申告し、相続税を納付すると定められています。10か月以内の申告納付を目標に、相続放棄の検討、準確定申告、遺産分割協議などをマイルストーンとして置くとわかりやすくなります。

※ 相続の放棄は相続があったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。

※ 準確定申告・・・被相続人の所得税、住民税の申告のこと。相続人が行います。年初から亡くなった日までの所得を計算して申告します。

※ 相続人、受遺者は相続または遺贈された預貯金や不動産の名義変更を行います。

※ 税務調査がある場合があります。税務調査は相続開始から3年ぐらいの間にあることが多いです。

5.相続の放棄

相続の放棄も重要な検討項目です。相続人の中には相続はしたくないという人もいます。特に借入金などの債務がある場合には相続を放棄することがあります。民法第八百九十六条では 「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」としていますので、相続人は亡くなった方の財産や債務を、その亡くなった瞬間に引き継いでいることになります。

したがって被相続人に借入金債務がある場合、それぞれの相続人は借入金という債務を負っていることになります。なかなか認識しづらいところですが債権者から見ると相続人は債務者です。また、相続開始時では確定債務ではありませんが将来発生する可能性のある連帯保証債務も考慮しておく必要があります。

相続の放棄は相続の開始があった時から3か月内に家庭裁判所に申述することとなっています。ただし、相続財産の一部を相続する、あるいは申述が3か月の期限を超えてしまう、このような場合には放棄ができなくなってしまう恐れがあるので注意が必要です。

また、相続の放棄は他の相続人に影響を与えます。第1順位の相続人の配偶者と子が全員放棄すると、第1順位の相続人は存在しなかったことになるので第2順位の父母が相続人となり父母が被相続人の財産債務を承継することになります。もし、第2順位の父母も放棄すれば、第3順位の兄弟姉妹が相続人となって被相続人の財産債務を引き継ぎます。さらに兄弟姉妹も放棄すれば相続人はいなくなるので財産債務は国庫に帰属することになります。

相続の放棄をせずに、その後債務の負担を強いられることがありますので、債務の有無、3か月という期限、他の相続人への影響などを慎重に考慮すべき事項です。

<実例>

父が亡くなって兄弟2人が相続人です。父の相続財産は生前に自宅を売って手にした預貯金が1億円ほどあり兄弟は仲良くその預貯金を折半して相続しました。ところが父の死後3年ほどたって債務の返済を迫る手紙が来ました。父が生前友人のために連帯保証人になっていましたが、その友人が困窮して債務の返済が滞ったため、連帯保証人である父に請求が来たのですが、その父が亡くなっていたため、父の相続人である兄と弟に催促状が回ってきたのです。弁護士に相談しすぐにも放棄をしようとしましたが預貯金を5,000万円ずつ相続していたため放棄はできませんでした。今は、弁済金の交渉にあたっています。

6.遺産分割について

遺産分割とは相続人間で財産をどう分けるかということですが、遺言がある場合とない場合では手順、方法に大きな違いがあります。

遺言がある場合には遺言に記載された内容に沿って遺産分けすることが基本となります。一方、遺言がない場合には相続人の間での協議=遺産分割協議を行って確定することになります。

①遺言がある場合

遺言書通りに相続人間で財産分けに合意できれば、その内容どおりに財産を取得します。それに反し、遺言書がありながら、遺言書の内容と異なる分割の方法をとることもできます。この場合には相続人全員、遺言執行者の同意を必要とします。この協議は相続税の申告との関係から相続開始から10か月以内と考えられています。この場合は遺言書に立ち返って遺言書通りの分割をせざるを得ません。

遺言がある場合、相続人には遺留分があります。遺留分とは子、親等の推定相続人が最低限、相続財産の権利を主張できる取り分をいいます。兄弟姉妹には遺留分はありません。

②遺言書がない場合

相続人間における話し合いにより遺産分割を行います。遺産分割協議が纏まらない場合、調停に持ち込むことが多いでしょう。この間、相続開始から10か月を超えるようであれば、財産が未分割であるとして法定相続分による申告納付が行われます。遺言がない場合に相続人間で合意することは大変難しいように思います。相続財産の多少にかかわらず多くの場合に調停に持ち込まれています。

<実例>

父の財産は自宅不動産が中心で預貯金はごく僅かでした。相続人は嫁にいった姉と実家に父と住んでいる弟の2人です。父は不動産を跡継ぎの弟に、現預金は少ないながらも姉に渡したいと思っており、生前からそのように話していました。ただ、遺言までは不要と残すことはありませんでした。父が亡くなり49日も過ぎたころ、弟から遺産分割の話を切り出したところ、姉は法定相続分1/2を主張したのです。姉には子供が二人いて子育て資金、住宅ローンの真最中、それに夫の介護や老後資金も心配とのことです。かといって弟に姉に払えるだけの貯蓄はありません。二人の話は暗礁に乗り上げたままです。

6.税務調査について

相続税申告が完了してからも税務調査がある場合があります。申告内容に疑義がある場合、申告額が過去の所得から判断して過少である場合、その他の資料等との不突合がある場合などです。

国税当局ではあらゆる機会をとらえて納税者の資料を収集しています。マイナンバー、金融機関、生命保険会社、証券会社、事業会社、所得税確定申告、法人税申告、宝くじ、各種懸賞金、法務局、税関等々。それらの資料と相続税申告書の内容を突合します。コンピューターの精緻化によってこれらの電子データの照合は非常に精度が上がっており、申告漏れがいち早く検索されるようになってきています。

したがって、正しい申告をすることが望まれます。税務調査で申告漏れを指摘されると重加算税、延滞税等の罰金を課されます。また、配偶者の税額軽減などの優遇措置の適用がされないこともあり納税者に不利に働きます。

税務調査で最もよく指摘されるのが名義預金です。名義預金とは、例えば名義は被相続人の配偶者になっているが、実質は被相続人の預貯金である場合に、それは名義だけのものであり被相続人の預貯金であるとされるものです。この名義預金は被相続人の相続財産に含めなければなりません。名義預金かどうかの判定は微妙です。預金の管理状況、印鑑通帳の管理、預貯金の出入の経緯、贈与の有無、名義人の過去の収入状態など総合的に判断することになります。相続が発生する以前から預貯金の管理についても気を付けたいものです。

7.相続対策

相続は多くの問題を含んでいます。放置しておくと複層的に問題が発生し解決困難ということになりかねません。下記はその一例です。生前から対策をとって準備を万全にしておく必要があります。

①スムーズな遺産分割のために

  • 被相続人が会社借入の連帯保証人に父がなっていた
  • 被相続人に非嫡出の子がいる
  • 被相続人に前妻の子がいる
  • 被相続人の遺言がないために遺産分割が纏まらない
  • 認知症の相続人がおり遺産分割ができない
  • 障害のある相続人の面倒は誰がみるのか
  • 相続人である兄弟間の仲が悪い
  • 相続人の中に行方不明者がいる
  • 被相続人の財産は自宅だけのため分割するとすれば売却せざるを得ない
  • 長男は病弱でありその嫁は親の面倒を見ないため財産は嫁には渡したくない
  • 会社の株主が多数いるため株式を集約したい

 

②納税資金・節税対策を準備する

  • 相続財産は不動産ばかりで相続税が多額となり納税資金がない
  • 売却できない会社の株式を保有して相続税が多額になる。事業承継税制を活用したい
  • 遺留分対策として生命保険に加入して金銭の準備をしたい
  • 株式を会社に買ってもらい納税資金に充てたい。会社にその資金的余裕がない
  • 会社で退職金に充当する生命保険の加入したい
  • 生命保険に未加入なため今からでもはいれる保険に加入し非課税枠を活用したい
  • 不動産を購入して現預金を不動産に変化させ節税したい
  • 自宅が古いので立て直したい。大きな節税になるはずと思う
  • 事業承継税制を活用して無税の承継ができないか検討してほしい
  • 自宅が田舎のため、都心にマンションを買って小規模宅地特例を大きく活用したい
  • 概算の相続税額、二次相続税額を知っておきたい
  • 障害者扶養信託契約を行って非課税枠を使いたい

 

③財産の維持管理

  • 父が認知症のため銀行預金が動かせない
  • アパートが老朽化しているが建て替え資金を借りたい
  • 祖父の代の不動産が未登記のままあるので相続登記をしたい
  • 空き家になった実家の管理ができず不審火等心配である
  • 遺言の筆跡が違う、その当時遺言は書けなかったはずだ、弁護士に相談したい
  • 兄は生前に自宅購入資金を援助してもらったが、弟には何もくれなかった
  • 義理の父がいるが、夫の死後面倒は見たくない
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